トランプ氏「米雇用統計に改ざん」大幅な下方修正受け
先週7月の米国雇用統計が発表され、5、6月の雇用統計には大幅な下方修正が入り市場は混乱しました。下方修正では、合計で25万人もの雇用がなかったことがわかりました。これを受けしばらく好調だったS&P500も1.6%の大幅下落を記録。トランプ大統領は米国労働省(BLS)を批判し、BLS委員長を解任すると発表しました。
(本記事は、公開情報に基づく分析および筆者の見解を示したものであり、その正確性や完全性を保証するものではありません。株価や企業の将来を保証せず、また特定の政治的立場や政策を支持・推奨する意図も一切ありません。投資判断や経済的判断は、ご自身の責任で行ってください。)
目次
トランプ大統領は統計局長を解任
雇用統計ってなんだっけ
雇用統計の集計方法
精度が低下しつつあった
米国市場は下落
トランプ大統領 統計局長を解任
最新7月の雇用統計の結果は7万3000人増加となりました。また、5月と6月の25万の下方修正も合わせて、この3ヶ月の労働市場が弱くなってきていることがよくわかる結果となりました。
これを受けてトランプ大統領は「数字はRIGGED(操作された)」と断定し、バイデン政権が任命した労働統計局長のマッケンターファー氏を即座に解任すると自身のSNSに投稿。
「統計が改ざんされた」と主張するトランプ氏のポスト/Truth Social
米労働省は正式にマッケンターファーを解任しました。労働省局長は「信頼あるデータを提供すべきだ」とSNSにポストし、トランプ氏の主張への支持を表明。一方で統計情報への直接的な介入に批判の声が上がっています。
今回は雇用統計について簡単に振り返り、なぜこのような雇用統計の大幅な誤差が出たのかについて解説します。
雇用統計ってなんだっけ
雇用統計は、毎月第一金曜日の朝に米労働省の労働統計局(BLS)が発表する毎月の雇用状況を示すものです。特に「非農業部門雇用者数」や「失業率」は市場参加者が注目する指標であり、アメリカ経済の全体像を把握するうえで非常に重要です。
なぜ重要かというと、雇用状況がそのまま経済状況を表すからです。例えば、雇用が増えれば、企業は成長して人を雇います。そして働く人の給与も増えれば消費も拡大する可能性が高くなります。つまり、雇用が生み出されることによって国内経済がよく周り成長します。
雇用統計がいい結果だった場合、FRB(連邦準備制度)は経済の過熱を抑えるために利上げを検討します。一方、雇用が弱ければ利下げを打ち出す可能性が高くなるということになります。
雇用統計の集計方法
雇用統計には大きく二つの調査から得られる指標が含まれます。
一つは事業所調査と呼ばれる企業側へのアンケートで、非農業部門の就業者数増減(いわゆる非農業部門雇用者数)などが算出されます。
もう一つは家計調査と呼ばれる個人宅へのアンケートで、こちらから失業率や労働参加率などが求められます。普段ニュースで「雇用統計」と言う場合、主に前者の非農業部門の雇用者数増減と失業率を指すことが多いです。
事業所調査(非農業部門雇用)は統計の母集団が非常に大きいことが特徴です。毎月政府は約12万件以上の企業・官公庁を対象に調査を行い、全米の雇用状況を推計しています。
企業から「給与支払い名簿上の従業員数」が報告され、それを集計・推計することで全体の就業者数を算出します。この際、季節による一時的な雇用増減(例えば年末商戦で小売業が臨時雇用を増やす等)を平準化するために季節調整などが施されます。
こうした大規模サンプル調査と統計モデルにより、雇用統計は米国経済の雇用動向をタイムリーに示す重要な指標となっています。ただし、月の初めに発表される前月の統計は速報値でしかなく、正確な統計値とは限りません。そのため、後日統計に修正が加えられ正式な統計値として公表するという流れになっています。
とはいえ、今月発表された5,6月の雇用統計値の下方修正は大きすぎる値でした。これまで報告されていた値より合計で25万8千人も少なかったんです。それぞれの速報値は、5月に14万4000人、6月に14万7000人でした。しかし、実際の値は1万9000人、1万4000人でした。合計で25万8000人もの乖離がありました。
今年の1月からの雇用統計グラフを見ると異常な落ち込みであることがよくわかると思います。
米国労働局データより筆者作成
今回の下方修正は、雇用統計の月次データとしては非常に異例な規模です。通常の修正幅は数千人から数万人程度にとどまります。過去20年の平均でも、速報から最終値までの累計修正はおおむね5万人前後が一般的です。
つまり、月次の雇用統計において今回の下方修正は過去の傾向から見ても異常値に近い大きさであり、速報値の信頼性や統計の収集方法そのものにも注目が集まる事態となっています。
では、なぜこのような乖離が起きてしまったのでしょうか。その背景には、データ収集上の課題がありました。
精度が低下しつつあった
雇用統計を扱うBLSでは、新型コロナ以降データ収集体制の弱体化が指摘されています。
BLSが企業から毎月集計する雇用データの回答率が低下しており、初期の速報値に誤差が生じやすくなっていました(ロイター)。BLSは全米約12万1000の企業や官公庁(約63万の事業所)に対して雇用者数を調査していますが、近年この調査への回答率が2020年10月の約80.3%から2025年7月には67.1%程度まで落ち込んでいました。
回答する企業が減れば、統計の精度も低下しやすくなります。その上、新型コロナ禍でデータ収集や分析の難しさが増し、統計局の人員削減もあって問題が長引いていました。こうした背景から、BLSが発表した速報値が実態より楽観的(就業者数を過大に推計)になってしまい、後から大幅な修正を強いられる事態につながったと見られます。また、一部ではトランプ政権による人員削減の影響によるものとも言われています。
米国市場は下落
米国の株式市場は雇用統計の大幅な下方修正を受けて急落しました。
S&P500指数は当日約1.6%下落し、Nasdaqは2.2%下落、ダウも1.2%減少するなど、米主要株価指数が全面安となりました。特にS&P500ではおよそ2カ月ぶりの最大下げ幅となり、週単位でもS&P500が約2.4%、ナスダックが2.17%、ダウが2.9%以上の下落を記録し、4日連続の下落でウィークリーでも大幅安となりました。
なぜ雇用の悪化が株価の下落に繋がるかをおさらいすると、雇用状況は消費活動や企業業績の先行きに直するからです。雇用が弱ければ賃金の伸びも鈍り、家計消費が減速し、特に小売やサービス業の利益見通しに影響します。そうすると景気減速懸念が強まり、投資家は成長株やリスク資産を手放し、安全な債券や現金に資金を移す傾向が強まります。つまり株価の価値が下がるので株価が下落します。
このような状況ではみんなお金を使いたくないのでお金を使いやすくするために、FRB(金融政策を決めるところ)は金利を下げようと判断したりします(金利が下がる→お金を借りやすくなる→消費が増える→景気がよくなる)。
今回は、市場が全く想定していなかったほどの弱い雇用データが示されたことで、株価へのショックも大きかったというわけです。
今回の統計の弱さはFRB(米連邦準備制度)が今後の金利政策を見直すには十分な結果でした。市場では、これまで想定されていた「利下げは慎重に進む」という見方から一転、9月の利下げ確率が38%から86〜87%に急上昇したと報じられています(ロイター)。
金融政策が緩和方向に傾く可能性が高まると、短期的には株価にプラス材料となる場合もありますが、今回は景気後退のシグナルとして受け止められ、投資家がリスク回避に動いた面が強いといえます。
このリスク回避の流れは債券市場にも波及しました。安全資産とされる米国債に資金が流れ込み、10年物や2年物の国債利回りはそれぞれ15〜20ベーシスポイント(bps)低下しました。株から債券へ資金がシフトする典型的なリスクオフの動きが強まり、株式市場全体の下押し圧力となった格好です。
トランプ氏に非難の声
専門家や元BLS長官をはじめとする経済関係者は、「統計の修正は日常的に行われるもので、通常のプロセスの範疇にある」とし、トランプ氏の解任決断を「データのメッセンジャーを撃つような行為」だと批判しました。特に元BLS長官ウィリアム・ビーチ氏は「根拠なき解任で危険な先例を作る」と警鐘を鳴らしました。
また、The Atlantic はこの一連の流れを、統計制度への政治介入や報告に対する恣意的な操作として「authoritarian streak(権威主義的傾向)」との見方で報じました。Axios や The Guardian も、独立性が保証されるべき政府統計機関に政治権力が介入する懸念を指摘し、強く反発しています。
一方で、労働長官や一部共和党議員からは、「公正な報告体制を確立する上で必要な措置だった」と擁護する意見も伝えられています。しかし、報道各社は一様に「投資家や国際市場が米国の公的データに対する信頼を失うリスク」を指摘しており、投資判断が難しくなることへの懸念を示しています。
また、トランプ氏は連邦準備制度(FRB)についても影響力を強めており、FRB理事のアドリアナ・クグラー氏辞任を受け、構成メンバーの変更を進めようとする動きが報じられています。この動きとともに、雇用統計の弱さが利下げ圧力を高め、今後の金融政策にも不透明感をもたらしています。
トランプ大統領この一連の措置・発言は単なる数字への反応を超え、統計機関の中立性や金融システムへの信頼に大きな影響を及ぼす可能性がありそうです。
今回の統計では2ヶ月連続で労働市場の弱さが続き、トレンドとなりつつあることが示されました。次回の統計や9月のFOMCの利下げに大きな注目が集まります。
参考文献
・Reuters. (2024年8月21日). US job growth year through March was far less than estimated. Reuters. https://www.reuters.com/markets/us/us-job-growth-year-through-march-was-far-less-than-estimated-2024-08-21/#:~:text=If%20the%20tally%20holds%20through,to%20employment%20in%20March%202009
・U.S. Bureau of Labor Statistics. (2024年). 2024 preliminary benchmark revision. https://www.bls.gov/ces/notices/2024/2024-preliminary-benchmark-revision.htm#:~:text=minus%20one,0.5%20percent
・Reuters. (2025年8月1日). US labor market cracks widen, job growth hits stall speed. Reuters. https://www.reuters.com/world/us/us-labor-market-cracks-widen-job-growth-hits-stall-speed-2025-08-01/#:~:text=Payrolls%20for%20May%20were%20slashed,larger%20than%20normal
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