なぜ?銀価格急伸の理由
今月12日、銀価格が急伸し、同じ安全資産の金を大きく上回る上昇率を記録しました。背景には、金融不安で買いが集まっただけでなく、AIデータセンターや太陽光など工業需要が需要の底上げに働いていることがあります。本記事ではなぜ銀価格が上昇したのかわかりやすく解説します。
(本記事は、公開情報に基づく分析および筆者の見解を示したものであり、その正確性や完全性を保証するものではありません。株価や企業の将来を保証せず、また特定の政治的立場や政策を支持・推奨する意図も一切ありません。投資判断や経済的判断は、ご自身の責任で行ってください。)目次
金と比べ銀が急伸
なぜ銀価格がこれほど伸びたのか
AIデータセンターが銀をさらに押し上げ
需要は爆発中、供給は硬直
金と比べ銀が急伸
先日12日、金も銀も安全資産買いで上昇しました。値動きは銀の方が大きくなりました。1月12日、金は一時4,600.33ドル、銀は84.58ドルまで上昇し、上昇率も金が+1.4%前後に対して銀は+5.4%と差がついています。
金ETF ($GLD)とSLV($SLV)の過去5日の株価(2026年1月13日現在)/ woodstock.club
この銀の強さを示すのが金銀比価(Gold/Silver Ratio)です。高値ベースで約54.4倍となり、長期的な目安(概ね50〜65倍程度)と比べても、銀が相対的に買われた状態と言えます。
金が主に通貨不安の受け皿なのに対し、銀はそれに加えてAI・太陽光などの工業需要が追い風になりやすいです。2025年の年間でも金が+64%に対し、銀は+147%と大きく上回ったと報じられており、今回の銀高も「安全資産需要+実需」が重なった結果と言えます。
ではなぜ銀がこれほど金と差をつけて急伸したのか、具体的にみていきましょう。
なぜ銀価格が伸びたのか
今回の急騰のきっかけは、通貨・金融システムへの不安です。
SLVは、LBMA Silver Price(ロンドンの銀価格ベンチマーク)への連動を目指し、裏付けとして実物の銀地金を保管する仕組みを持つETFです。
米司法当局がFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長をめぐる捜査に踏み込んだとの報道が出たことで、中央銀行の独立性に対する不安が一気に強まりました。結果として資金は安全資産の金・銀へ流れ、金は同日に史上最高値を更新。ドル安も重なり、「法定通貨から実物資産へ」資金がシフトした格好です。さらに、イランを含む中東情勢の緊迫化も安全資産需要を後押ししたと見られます。
また銀は金に比べて市場規模が小さいため、需給が少しでも崩れると値動きが増幅しやすい傾向があります。2025年は関税をめぐる警戒などから銀の現物が米国側に偏り、ロンドン市場では取引に回る在庫が細りやすくなりました。その結果、期近の現物価格が先物を上回る局面も生まれ、「いま現物を確保したい」という需要が価格を押し上げる、いわゆるスクイーズの様相を強めています。
AIデータセンターが銀をさらに押し上げ
ここからは、株価を支える構造的な実需についてみていきましょう。 Silver Instituteは、2024年の工業用需要が6.8億オンスと過去最高を更新した背景に、PV(太陽光)・電動化・グリッド投資に加え、AI関連用途の急増を挙げています。
生成AIの普及は、データセンター建設ラッシュをもたらしましたが、同時に「電力密度」と「発熱」という物理的な壁を顕在化させました。電気を食えば食うほど熱が出る。そして排熱が追いつかなければ、計算性能は頭打ちになります。
そこで銀が効いてくるのは、サーバーの裏方です。注目されるのが、半導体の接合材としての「銀焼結(シルバー・シンタリング)」です。これは銀ナノ粒子ペーストを低温で焼結させる技術で、従来のはんだよりも圧倒的に高い熱伝導率(製品によっては250W/mK級)でチップの熱を逃がします。 AI向けの高出力GPUや、電源周りのパワー半導体が増えるほど、「最強の放熱・導電素材」としての銀の出番は増え続けます。価格上昇により代替素材も議論されますが、熱・電気の限界領域で戦うAIインフラにおいて、銀の性能を置き換えることは容易ではありません。
需要は爆発、供給は硬直
最大の需要源である太陽光パネル市場でも、構造変化が起きています。従来の「PERC型」から、より銀を多く使う「TOPCon」や「HJT」といった次世代型への移行が急ピッチで進んでいます。 実際、次世代パネルの銀使用量は従来型の約2倍(最大20mg/W)にも達します。パネルの性能が上がるほど銀が減るのではなく、むしろ「増える」というこの技術トレンドが、銀需要を強力にサポートしています。
さらに次の巨大需要として注目されるのがフィジカルAI(ロボット)です。 CES 2026ではアーム $ARMが「Physical AI」部門を新設したと報じられ、ロボット・自動車領域への投資競争が加速しています。モルガン・スタンレーは2050年にほぼ10億台規模のヒューマノイド普及を見通し、イーロン・マスク氏は2040年までに100億台に達すると語っています。ロボットはセンサー・配線・接点の集合体であり、導電材料としての銀の利用余地は極めて大きく、太陽光と並ぶ長期的な需要の柱になり得ます。
一方で、供給サイドには越えられない壁があります。米シンクタンクのSilver Instituteによると、市場は2021年から慢性的な供給不足に陥っており、2024年単年で1.48億オンス、過去4年の累計では約6.8億オンスもの不足を記録しました。これまで市場は、過去の在庫を切り崩すことでなんとかこの穴を埋めてきたのです。 さらに厄介なのが、銀の多くが銅や亜鉛などの副産物として採掘されるという事情です。メインの鉱物の生産計画に左右されるため、銀価格が上がったからといって都合よく増産することはできません。この構造的な供給の硬直性こそが、今回の上昇相場を長期化させる決定的な要因となっています。
まとめると、今回の銀(SLV)の急伸は、金融不安による安全資産買いが火をつけ、現物の逼迫が値動きを増幅し、AIデータセンター・太陽光・フィジカルAIといった実需が下支えしている構図です。短期の乱高下には注意しつつも、銀が「貴金属」だけでなく「工業素材」として再評価されている点は押さえておきたいところです。
参考文献
Reuters.(2026年1月13日). Global Markets View - Asia: Yen slides to a one-and-half-year low, dollar struggles
BlackRock (iShares).(参照日:2026年1月13日). iShares Silver Trust (SLV) — Fund Profile / Holdings / Benchmark (LBMA Silver Price).
https://www.ishares.com/us/products/239855/ishares-silver-trust-fund
The Silver Institute.(2025年4月16日). Silver Industrial Demand Reached a Record 680.5 Moz in 2024.
https://silverinstitute.org/silver-industrial-demand-reached-a-record-680-5-moz-in-2024/




