Oracle株 1か月で急伸 その背景は?
Oracle(オラクル)の株価が直近1か月ほどで40%近く上昇しています。9月に発表された最新決算やAI関連の大型契約の報道を受け、注目が集まりました。今回はこの株価急騰の背景を整理してみましょう。
(本記事は、公開情報に基づく分析および筆者の見解を示したものであり、その正確性や完全性を保証するものではありません。株価や企業の将来を保証せず、また特定の政治的立場や政策を支持・推奨する意図も一切ありません。投資判断や経済的判断は、ご自身の責任で行ってください。)
目次
好調な四半期決算が引き金に
共同創業者ラリーエリソン氏は世界一の富豪に
OpenAIやMetaとの超大型クラウド契約
今後もクラウド事業は強気な成長見通し
TikTokとの関係にも注目
好調な四半期決算が引き金に
オラクルの株価はこの1ヶ月で約39%伸びています。(2025年9月23日現在)
オラクルの1ヶ月の株価 / woodstock.club
アナリスト評価では「買い」の指標となっており、注目されていることが伺えます(アナリスト評価は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません)。
アナリスト29人によるオラクルのアナリスト評価 / woodstock.club
この株価上昇は、9月9日に発表された2026会計年度第1四半期(6-8月期)の決算が株価上昇の起点となりました。
売上高は149億ドルと前年同期比+12%の増収となり、中でもクラウド事業が絶好調でした。クラウド関連の売上(IaaS※とSaaSの合計)は72億ドルで前年同期比+28%、特にクラウド基盤サービスであるIaaS単体では33億ドルと前年同期比+55%の高成長を記録しています。
この強力なクラウド需要に支えられ、Oracleの四半期業績は市場予想を上回る「驚きの結果」となりました。さらに注目すべきは受注残(RPO)と呼ばれる契約残高の急増です。
OracleはこのQ1に「3社の顧客と複数の数十億ドル規模契約を結んだ」結果、将来の売上となる受注残が前年同期比+359%と桁違いに増え、4,550億ドルに達したと発表しました。
このRPO急拡大は、Oracleが大型案件を獲得している証拠であり、市場には将来の収益見通しが一気に明るくなったとのインパクトを与えました。
決算発表を受けて翌日のOracle株は一時前日比36%高という1992年以来の大幅上昇を記録し、投資家の買いが殺到しました。
※IaaS(Infrastructure as a Service): インターネット経由で計算資源やサーバー等の基盤を提供するクラウドサービス形態。
共同創業者ラリーエリソン氏は世界一の富豪に
これらの株価上昇を受け、9月10日にはOracleの共同創業者ラリー・エリソン氏がイーロン・マスク氏を一時的に上回り、「世界一の富豪」になりました。
エリソン氏はOracle最大の個人株主であり、この株価の急伸によって、1日で純資産が890億ドル(約13兆円)も増加。これにより、その日の時点では総資産が3,832億ドル(約56兆円)となり、マスク氏を一時的に抜いて首位に立ちました。
順位は再び逆転していますが、「エリソン氏が世界一に躍り出た」という事実は大きな話題となりました。
余談ですが、ラリーエリソンとイーロンマスクと言えば、2022年の以下のやりとりが話題になりました。
マスク氏とエリソン氏のTwitter買収に関するSMSやりとり
訳)
マスク: 「Twitter のディール(買収)に参加する興味ある?」
エリソン: 「もちろん 👍」
マスク: 「クール」
マスク: 「大体どのくらいの金額を考えてる?強制じゃないけど、案件はオーバーサブスクライブだから参加者を調整しなきゃいけない」
エリソン: 「10億ドル…もしくは君が勧める額で」
マスク: 君にとって都合のいい額でいいよ。個人的には 20億ドル以上をおすすめする。この案件はものすごく可能性があるし、他の誰よりも君に入ってもらいたい。
エリソン: 確かにこれは大きな可能性があると思う…それにすごく楽しいだろうね。
以上のやりとりのように10億ドル単位の話がSMS上でカジュアルに行われていました。
エリソン氏はその後、実際に約10億ドルを出資し、Twitter 買収の主要な共同投資家の一人になりました。
エリソンがマスク氏を抜いて、一時的に世界一の富豪になったことで再び話題になりました。
OpenAIやMetaとの超大型クラウド契約
Oracle株急伸の背景には、生成AIブームに伴うAI特需を取り込んだ点も大きいです。
今年に入り、OracleはAI開発企業のOpenAIと5年間で総額3,000億ドル規模とも報じられるクラウド利用契約を結びました。これは業界でも史上最大級の契約と言われ、Oracleのクラウド(OCI)上にOpenAIが自社の巨大AIモデルを運用・学習するためのインフラを構築する内容と伝えられています。
さらに追い打ちをかけるように、9月中旬にはFacebook親会社Metaとの間で約200億ドル規模のAIクラウド契約を協議中との報道がなされました。この契約が実現すれば、Metaは自社AIモデル(例:Llama 2など)の訓練やサービス運用にOracleのクラウドパワーを活用でき、Oracle側にはまたとない超大型顧客の獲得となります。実際この報道が出た9月19日にはOracle株が約4%急騰し、年初来で株価+85%高という水準に達しました。
Oracleはかねてより自社のOracle Cloud Infrastructure(OCI)を「他社より低コストで高速」かつ「他クラウドとも組み合わせやすい」プラットフォームとして差別化し、AI用途に適した大規模なGPUクラスター基盤を提供できる点をアピールしてきました。こうした強みが評価され、OpenAIやMeta、さらにイーロン・マスク氏の創設した新興AI企業xAIとの取引獲得にも成功しつつあるのです。
このように相次ぐ超大型契約のニュースは、「OracleがAI時代の主要クラウドプレイヤーとして躍進している」という期待を市場に抱かせ、株価上昇を後押ししました。
クラウド事業の強気な成長見通し
受注残の爆発的増加を受け、Oracle経営陣もクラウド事業の将来予測を大幅に上方修正しています。CEOのサフラ・キャッツ氏は「今回のRPO急増により、Oracleのクラウドインフラ事業の成長見通しを大幅に引き上げることになった」と述べ、2026年度(現会計年度)のOCI売上を前年比+77%増の180億ドルに達すると予測しました。
さらに「その後4年間でOCI売上は約320億→730億→1,140億→1,440億ドルに拡大する」という中期予測も示しています。
これら5年分の売上予測の大半は既に前述の受注残(RPO)に含まれているため、かなりの確度で実現可能だと自信を見せました。この強気の計画は市場アナリスト予想を大きく上回るもので、Oracleが今後クラウド業界のトッププレイヤーに躍り出る可能性を示唆しています。
事実、ウォール街でも「Oracleはもはや単なるデータベース企業ではなく、AI時代のハイエンドなインフラ提供者へと進化しつつある」と評価する声が増えており、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudに次ぐ“第4のクラウド”として存在感を高めています。
もっとも、これほど巨額の契約にOracleが依存することへ警戒する見方もあり、今後はこれら大型顧客との関係維持や安定稼働が継続的な課題となるでしょう。しかし全体としては、AI需要の追い風を受けたクラウド事業拡大への期待から、Oracle株への強気ムードが続いています。
TikTokとの関係にも注目
OracleはTikTok(ティックトック)の米国事業を巡る動きでも重要な役割を果たす見込みで、これも同社への注目材料となっています。
米中交渉の下で進められているTikTok米国部門の切り離し・再編案では、新たに米国法人を設立し取締役7名のうち6名を米国人が占める形で運営する計画です。
また米国ユーザーのデータはすべてOracle運営の米国内クラウド基盤に保存され、TikTokのおすすめアルゴリズムもByteDance(中国本社)の手を離れて米国内で管理・再構築される枠組みとされています。
Oracleは以前から「Project Texas」という取り組みでTikTok米国ユーザーデータの管理を担っており、今回の再編でも引き続きデータの受託先・セキュリティ提供者として信頼を得る形です。
さらに、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によれば、Oracleや投資ファンド大手Silver Lake、ベンチャー投資のAndreessen Horowitz(a16z)ら米国勢コンソーシアムがTikTok米国事業の株式の約80%を取得し支配権を握る計画が浮上しています。トランプ大統領も、Oracle創業者のラリー・エリソン氏、デル創業者のマイケル・デル氏、そしてメディア王ルパート・マードック氏とその息子ラクラン氏などが米側投資家として参加する可能性に言及しました。
なお、米国内法で定められたTikTok売却期限(当初2025年1月予定)は交渉進展を受けて2025年12月中旬まで延長されており、最終合意に向けた調整が続いています。TikTok問題はOracleにとっては政府から信頼されるクラウド企業としての地位を高める追い風ともなるでしょう。
今後この件が正式決着すれば、Oracle株にさらなる注目が集まる可能性もありそうです。
参考文献
CNN Japan. (2025年9月11日). 米オラクルのエリソン氏が世界一の富豪に、純資産で一時的にマスク氏抜く. CNN.co.jp. https://www.cnn.co.jp/business/35237864.html CNN.co.jp
Oracle Corporation. (2025年9月9日). Oracle Announces Fiscal Year 2026 First Quarter Financial Results. Oracle Investor News. https://investor.oracle.com/investor-news/news-details/2025/Oracle-Announces-Fiscal-Year-2026-First-Quarter-Financial-Results/default.aspx Oracle Investor Relations
TipRanks.com. (2025年?). Oracle (ORCL) Stock Rises on $20 Billion Meta (META) AI Cloud Deal Talks. TipRanks. https://www.tipranks.com/news/oracle-orcl-stock-rises-on-20-billion-meta-meta-ai-cloud-deal-talks TipRanks
Nasdaq. (2025年?). Is Now the Time to Buy Oracle Stock After Its Q1 Earnings‑Fueled Run? Nasdaq.com. https://www.nasdaq.com/articles/now-time-buy-oracle-stock-after-its-q1-earnings-fueled-run#:~:text=The%20cloud%20revenue%20trajectory%20presents,competitor%20to%20established%20cloud%20leaders ナスダック
Reuters. (2025年9月20日). China’s ByteDance will get 1 of 7 board seats for TikTok’s US operations, official says. Reuters. https://www.reuters.com/sustainability/boards-policy-regulation/americans-get-6-7-board-seats-tiktoks-us-operations-says-white-house-2025-09-20/ Reuters
MLQ.ai. (2025年?). Oracle‑Silver Lake Consortium to Control 80‑Percent Stake in TikTok US Operations According to WSJ. MLQ.ai. https://mlq.ai/news/oracle-silver-lake-consortium-to-control-80-stake-in-tiktok-us-operations-according-to-wsj/ mlq.ai