Weekly Bites! 🍩 vol.15 | GoogleのBardとOpenAIのChatGPT比較 | Shopifyのレイオフとロジスティクス部門の売却
2023年5月15日号
Weekly Bites Vol.15へようこそ!
woodstock.clubアプリで行った投票の結果、多くの人が次の2つのテーマに興味を持っていらっしゃるようでしたので、今週はこの二つのトピックでお送りします!
GoogleのBardとOpenAIのChatGPTの比較
Shopifyのレイオフとロジスティクス部門の売却
始める前に、念の為ですが、私たちの配信しているコンテンツは投資のアドバイスではなく、ここで述べることはすべて筆者(Brian Yun)の個人的な意見と調査に基づいており、Woodstockの見解を代表するものでもありません。個人的にポジションを保有している可能性もあります。WeeklyBites!に掲載されている内容は、あくまで情報提供のみを目的としていますのでその点ご理解ください。
目次
#今週の気になるトピック
#GoogleのBardとOpenAIのChatGPTの比較
#Bardの復活!
Bardとは:Bardとは米Googleが提供する、利用者の質問に自動応答する対話人工知能(AI)サービス。2021年の開発者会議で公開した言語生成AI「LaMDA(ラムダ)」を利用して開発されており、日本語を含む40超の言語で提供されています。
ちょうど3ヶ月前、アルファベットの最初の公開デモでBardがジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡に関する質問に誤った回答をした結果、アルファベット株は急落し、時価総額が1億ドル以上減少しました。詳しくはChatGPTとBardについての以前のWeekly BitesVol. 3をご参照ください。
当時、投資家たちは、Google(Bard)がAIでMicrosoft(OpenAIのChatGPT)に負けているのではないかと心配していました。しかし、先週、アルファベットが、Googleの検索エンジンの上に生成系AIを統合した「AI Snapshot」を発表すると、アルファベット株に以前とは正反対のことが起こったのです。つまり、株価が9%上昇したのです。その結果、時価総額は1300億ドルにも達しました。
では、今回の発表の何がそんなに魅力的だったのでしょうか?GoogleはAI分野における熾烈な戦いに戻ってこれたということなのでしょうか?今回の発表がエキサイティングだった理由は、主に以下の3つが分かったというのが大きかったのではないかと思います。
Googleは、検索の体験がAIによってどんなに変わろうとも、広告ビジネスはこれからも続くと明言したこと。
Bardはよりリアルタイムの情報をもとに情報収集し、他社よりも多くのデータを活用できること。
アルファベット社は、ビッグテック企業として、リスクがあったとしてもイノベーションを起こし実行することができること。
Bardの検索はBing(マイクロソフトの検索エンジン)のチャットボットよりもより自然な感じではありますが、ChatGPTに比べて精度が低いと指摘されるなど、今は懸念される点もあります。しかし、Bardは学習とモデルの反復を続けることで、時間の経過とともに精度が上がっていくでしょうから、こういった懸念点は些細なことだと思います。一方、マイクロソフトは、Bingそしてそれ以外の分野へも、AIとの統合をますます行っていくでしょう。おそらくマイクロソフトが最も得意とするエンタープライズ・ソフトウェアとの統合を行っていくと思われますが、これについては後ほど説明します。
さて、Googleの発表がどう魅力的だったのか、上で挙げた3つのポイントを見ていきましょう!
#広告ビジネス
まず、Bardに、グーグルのビジネスのうちどれぐらいが広告からのものなのか聞いてみましょう。聞いてみたところすぐ答えが出てきました。Googleの総収入の82%は広告によるもので、例えば、google検索、Youtube、Gmail、その他のディスプレイネットワークなどからの収入だそうです。そしてこれらは、20%の純利益率を誇る高収益ビジネスでもあります。Bardのおかげで、わざわざIRプレゼンテーションのスライドを探したり、会社の財務諸表を探したりすることなく、自然言語を使った一つのクエリで、数秒以内にこういった情報を得ることができました。
これらが売上の82%を占めるわけなので、アルファベットにとって、この検索事業を失うわけにはいかないというのは言うまでもありません。ChatGPTが登場した際、人々の情報検索方法が大きくパラダイムシフトすると、誰もが口を揃えて言っていて、これは当然、アルファベット株に重くのしかかってくることになりました。
しかし、今回AIを活用した検索体験を発表したことで、アルファベットは、この検索という体験の中で、広告主がいかにターゲット顧客にリーチすることができるかということをしっかりと示したのです。Google AdsのVP & GMが書いたブログで、このSGE(Search Generative Experience)の仕組みについて説明していますので、ご覧ください。
https://blog.google/products/ads-commerce/google-search-ads-generative-ai/
ここにはSGEの製品デモが掲載されており、生成系AIが顧客のクエリに答える際、ページ全体の専用広告スロットに検索広告が表示されます。パッと見、これは理にかなっている感じがします。検索結果の上位にスポンサー付きウェブページのリンクが表示される代わりに、AIがすぐにいくつかの広告を表示するので、リンクをクリックする必要もないのです。これらの広告枠は、Eバイクや飛行機の旅程、保険を探す場合でも、同じように検索体験の中で表示できます。パラダイムシフトによって検索と広告収入を失う可能性があるという、以前の懸念を払拭することができ、アルファベット株にとっては、良い結果となったのでした。
#より多くのデータをリアルタイムに
2月、Weekly Bites!Vol.3では、Nvidiaのエンジニアが書いた「Bardが完全に一般公開されれば、すぐに10億人ユーザーに到達する」という言葉を引用しました。これは、GoogleがSearch、YouTube、Gmailなどの既存の流通チャネルを通じて持っている優位性によるものです。ChatGPTはあっという間にローンチして、すぐに多くの話題を集めて1億人のユーザーに到達しましたが、毎日10億人のユーザーが製品を使うGoogleに対抗することはまだ困難です。仮に、BardがChatGPTに比べて10%もしくは20%くらい精度が低いと仮定してみましょう。だとしても、多くの人にとって、80%は十分なレベルであり、現在の検索や仕事を大幅に楽にすることができます。精度のことを一旦忘れるとすると、BardはGoogle検索をベースにしていて、リアルタイムに入ってくる情報を処理することができるので、最新のトレンドやリアルタイムの情報を探しているユーザーには非常に適しています。例えば、僕ら(woodstock.club)のような米国株関連トピックでは、特定の企業の最新の決算発表やFOMCの結果について、リアルタイムに回答を求めることだって可能です。
その上、検索だけでなく、BardはYouTubeのデータにもアクセスできるのです。私の”YouTubeにもアクセスできるの?”という質問に対するBardからの回答を見てみましょう。
”はい、YouTubeのデータにアクセスできます。私(Bard)は非常に多くのテキストやコードから学んでいて、そこにはYouTubeからの情報も含まれます。例えばどれだけの人がそのビデオを視聴したとか、いつ誰がアップロードしたとか、そのチャンネルについて、何人がサブスクリプションしているとか、他にどんなビデオがあるとか、そういった類のものです。”
生成言語モデルとしてのBardは、ChatGPTほど正確ではないかもしれませんが、確実に言えることは、ChatGPTが持っていない、あるいは持つ機会がないかもしれない大量のデータを既に持っていてその利点を有効に利用しているということです。
#イノベーションについて
ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が書いた「イノベーターのジレンマ」という有名な本があります。この本では、マーケットリーダーがあらゆることを正しく行っても、予想外の競合が現れるとリーダーシップを失ってしまう、その理由について述べられています。アルファベットのような大企業は、自社を守るための一連のプロセスを持っていて、株主価値を高める義務があります。そのために、保守的にならざるを得ず、新興の競合他社よりも動きが鈍くなってしまうことがあるのです。
OpenAIがChatGPTでいきなり登場し、あっという間にMicrosoftとのパートナーシップを確立する中で、Alphabetもイノベーションを起こし、果たしてこのAIの競争に打ち勝つことができるのかどうか、そこに注目が集まっています。もちろん、アルファベットだって長い間AIに投資してきました。特にLaMDA(Language Model for Dialogue Applications)については、長くやってきたにも関わらず、それをここまで公開しなかったのはなぜなのでしょうか?
圧倒的に世の中を変えるようなイノベーションを世に送り出すこと。それを承認しないといけないAlphabetの内部関係者を思い浮かべてみてください。もし、このモデルが倫理的に間違った答えをしたり、安全を脅かす情報を提供したりしたらどうするのか。もし、このモデルが意図しない形で学習やトレーニングを続けていたら?これらは、企業の法務、トラスト&セーフティの部門、PRの部門などが、よく社内で問題として挙げる点です。モデルが何をするのかの全体像を把握しないまま、製品を発売するわけにはいかないと。
あなたがビジネスオーナーならどうでしょう。チャットボットは技術的にすぐに情報を提供してくれるので、ユーザーはわざわざウェブのリンクをクリックして情報を見に行く必要がなくなります。検索結果ページの下の最初の枠に入札していた広告主には何が起こりますか?これまでの検索ビジネスで、出稿していた広告主の露出を大幅に妨げることになるのでは?
これらは、アルファベットが長い間研究開発に投資してきたにもかかわらず、言語モデルをすぐに発表できなかったいくつかの理由である可能性があります。OpenAIがChatGPTを発表し、パラダイムシフトが現実的な脅威となった今、同社は何かをいち早く発表する必要に迫られたのです。
先週のAI発表では、Sundar Pichai(AlphabetのCEO)のリーダーシップは素晴らしかったように思います。2月に恥ずかしいAIデモを行った後、彼は明らかに緊急性を理解し、即座に行動を起こしました。彼はGoogle BrainとDeepMindのユニットを1つの屋根の下に統合し、ChatGPTに対する明確な優位性を示す形でBardをリブランディングしました。スタートアップ企業が迅速に行動できるのは、失うものが少ないからです。大企業は失うものが大きいので、通常は素早く動くことができません。にも関わらず、このスピード感です。
確かにBardはまだ多くの不正解を吐き出し、時には情報をでっち上げています。しかしながら、アルファベットがこの「正確さ」の問題を乗り越え、80%の製品を出荷することに成功し、正確な情報だけではなく別の価値を提供できると実証したことは、非常に素晴らしいことだと思います。
本当の意味でのレースは始まったばかりという感じです。消費者の立場からすると、AIを使うコストが下がり、生産性が向上していくので、競争は大歓迎です。マイクロソフトは、これまで企業向けソフトウェア(Teams、Github)を自社の製品群やクラウドに統合することに長けてきたので、API統合やプラグインの継続が期待できると思います。また、グーグル側では、広告製品を倍増して、Gmail、Youtube、検索などの消費者向け製品へのバードの統合に注力するでしょう。どちらも大注目です。
#Shopifyのレイオフとロジスティクス部門の売却
GW中(5月4日)、Shopifyの株価は決算を受け23%急騰しました。同社は売上高と利益で予想を上回り、従業員の20%削減と倉庫と物流部門を売却を発表したのです。
同社が人員削減を発表するのはこれが2回目(昨年7月に10%削減)なので、同社はかなりスリムになっており、株価も明らかにこのニュースを歓迎しています。しかし、物流部門の売却を発表したのはいかがなものでしょうか。また会社の全体的な方向性についてはどうなのでしょうか?
https://www.cnbc.com/2023/05/04/shopify-offloads-logistics-business-to-flexport.html
これを理解するためには、まず、Shopifyのビジネスを理解する必要があります。ShopifyはAmazonやWalmart、あるいは他のeコマースショッピングサイトとどう違うのか?Shopifyは具体的にはどんなことをやってる会社なのでしょうか?Shopifyはショッピングサイトではありません。Shopifyは、業者や物を売りたい人がオンラインショップを構築するためのサービスを提供しています。
あなたがオンラインで商品の販売を始めたいとしましょう。どのような選択肢があるでしょうか?
Amazon / Walmartにサードパーティーセラーとして商品を出品する。(WeeklyBitesVol.11でAmazon + Walmartのサードパーティーセラーについてお話したのを覚えていますか?)
自分自身のオンラインビジネスを構築し、消費者への直接販売(D2C)を開始する。
ご自身でオンラインビジネスを構築するための課題は何でしょうか?
(1)ウェブサイトの構築 (2)クロスリスティング(自分のウェブサイトに加えて、AmazonやeBayなど複数のプラットフォームに商品を掲載し、流通を最大化すること) (3)これらのプラットフォームにおける在庫管理 (4)ソーシャルメディアマーケティング (5)安全な支払い方法の追加 (6)出荷管理(オフラインの店舗も持っているとしたらどうでしょう?その場合、オンラインとオフラインの販売と倉庫をまたいで在庫を管理することがさらに難しくなります)など、多くの課題が挙げられ、おそらくこのリストはまだまだ続きます。
Shopifyは、このような課題をすべて簡素化することをビジネスとしています。ユーザーがビジネスをオンラインで簡単に開始して、上記のすべてを管理するためのサービスを提供しています。AmazonやWalmartが中央集権的なエンドツーエンドのプラットフォームを提供する巨大企業であるのに対し、Shopifyは分散型のプラットフォームを提供し、小売業者が独自のビジネスと収益への道を構築できるようにしています。
パンデミック時には、オンラインショッピングの急増に伴い、Shopifyの収益は急上昇し自社のプラットフォームで100万以上の小売業者にサービスを提供してきました。もちろんShopifyの株価もこの成長を追っかけるように伸びて、ピーク時には年間売上高の60倍で取引されました。(株価売上倍率PSRと呼ばれます。)
では、あなたがShopifyのCEOだとします。パンデミック時に大きな成長を遂げ、株価も急上昇しています。あなたならCEOとして次はどこのエリアに注力しますか?AmazonがShopifyより優れている点はどこなのでしょうか?それは、ロジスティクスです。Amazonで注文するとき、みなさん、迅速で安価な配送を期待しますよね。これは、Amazonが物流を完全に統合しているためにできることなのです。ウェブサイトやソーシャル・マーケティングがどんなに優れていても、配送がひどければ、小売業者は良いビジネスを続けることはできないのです。
Shopifyはこのことをよく理解していました。もちろん倉庫の建設と管理はとても大きなチャレンジです。Shopifyが数十億ドルの設備投資を行い、「Shopify Fulfillment Network」を構築した結果、小売業者は、サードパーティの物流業者と交渉することなく、Shopifyだけで完結できるようになったのです。これは、Amazonに対抗するためには絶対に必要な最後の重要な一手だったのです。
そのため、Shopifyが最近発表した物流ユニットの売却は、個人的にはとても悲しいニュースでした。物流の仕組みを構築するのは、彼らにとっては長く、コストのかかる道のりだったと思いますが、もしこれをやり遂げて、Amazonに匹敵する規模にまで拡大していたとしたら、それは小売業者にとっても、より色んなことができる選択肢が持てたことでしょう。
ShopifyのCEOであるTobi Lutkeは、この方向転換を伝えるための従業員へのレターの中でこう書いています。
https://news.shopify.com/important-team-and-business-changes
“Shopifyの主なミッションは、取引をよりシンプルに、より簡単に、より民主化し、より参加型に、そしてより一般的にすることです。その目的ために世界最高のコマースプラットフォームを構築してきたと思っています。"
そして、彼は、物流はShopifyにとっては「第二のビジネス」であったと言い切りました。
"物流は我々にとって明らかにやる価値のあるビジネスであったし、我々の主たるビジネスが成功するための状況をを作り始めてくれた"。
しかしながら、金利があっという間に高くなるにつれ、Shopifyのこのプロジェクトのコストも、一気に高くなりすぎてしまったのです。このような環境下では、Shopifyにとってはこの結果は避けられなかったと考えられます。
2月には、アマゾンとShopifyの幹部が、アマゾンのBuy with PrimeサービスをShopifyのEコマースプラットフォームに統合する交渉をしているというニュースもありました。これがこの先どうなっていくのか、興味深いところです。
https://www.businessinsider.com/shopify-and-amazon-are-negotiating-buy-with-prime-terms-2023-2
#Company Updates
#アプリアップデート
アプリの新バージョン1.1.15をリリースしました!
今回のリリースで新しくなった主な点は、以下の通りです。
パフォーマンスを改善しました。
UI/UX の改善を行いました。
いくつかのバグを修正しました。
#みんなのトレード
woodstock.clubアプリ上で、先週(5/8-5/14)売買された銘柄ランキングはこれだ!
#直近の決算
決算シーズン本格化!ここではwoodstock.clubで取り上げたいくつかの決算のまとめについて改めて、ご紹介しておきます。(BEAT!は、決算が予想よりもよかった時、MISS...は予想より悪かった時、INLINEは予想通りだった時をそれぞれ意味しています。)
PYPL 0.00%↑ Beat/ Beat
ABNB 0.00%↑ Beat/ Beat
RIVN 0.00%↑ Beat / Beat
DIS 0.00%↑ Inline / Miss
U 0.00%↑ Beat / Beat
今日は以上です!今日のコンテンツが参考になった方がいらっしゃいましたら、ぜひ「いいね!」と「購読」をお願いします!そして周りの皆さんにもシェアしていただけると嬉しいです。
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いつも楽しみに読んでいます!ブライアンさんの文章の大ファンです!
Shopifyのトピックは超・深かったです。株価が急騰したことの中身を知らなかったですが、読んでみてとてもフレッシュな気持ちになりました。目先の利益は負担でも、物流の方を続けていたら、、と少し悔しくもありますね、、、
個人的に、現在Shopifyを使って、オンラインストアを管理しています。
記事を読んで気づきましたが、配送のところがスムーズにShopifyの中で行うことができたら、とても助かることがたくさんあると思いました。送り状を管理できたり、発送で必要な作業もショピファイの中でできたり、頼めたり。
例えば、荷物を受け取れていないお客さんの対応も、他の物流を通してでなく、直接できたら、とも。。
これまではShopifyと物流は離れたものとして当然だったけど、そうではなかったら?という視点で考えてみることができました。
Weekly Bites!価値が高すぎです!凄い!(投資への考え方はきちんと自己責任で行います!!笑)